9月も中旬というのに日中はなお30度を超えるという。
この暑さに辟易していた仲間と示し合わせて、四国カルストへ出かけることにした。
秋は「山粧う」といい、山へ足を踏み入れただけで野山は一斉に色づき、すでに秋色が深い。
耳を澄ますと、蟋蟀(コオロギ)や 鈴虫など 虫の声がかまびすしい。
碧空には鰯雲が楚々とたなびき、山頂に近づけば、あたりは秋気に満ちている。
四国カルストの標高は1400メートルを超える。
山頂に秋の宿をとり、夕食を終えたのち、おもむろに宿より戸外へ足を運ぶ。
暗闇の中、天上を見上げれば、大気は澄みきって満天の星月夜である。
地上で見えていた星座はほんの一部であったことに改めて驚く。
とりわけ無数の星が集まる天の川は、目を見張るほどに鮮やかである。
少年の記憶にある天の川が彷彿とよみがえる。
秋の夜は山頂だけに肌寒い。
酒を酌み交わし、尽きぬ話に夜長を楽しむうち、どこからともなく明日は5時にご来光を拝もうという声で、床に入る。
翌朝は東雲の空が淡く色づきたる頃に身を起こし、外へ出る。
ほどなく雲海の中から現われた黄金色のご来光に、感嘆の声が処々にあがる。
秋の声を愛でながら山を下ると、渓谷を流れる水音が耳にやさしく、秋の蝉も心地よく唱和してやまない。
すでに田は刈り入れが進み、豊作を予感させる風情である。
ふたたび街へ戻れば、やんぬるかな、街中は今なお秋意なく、人は皆、わざと住みにくい処へ寄り集まって生きていることだと思ったことである。