四季雑感 土佐の「坊ちゃん」 50年前、医者になって1年間大学病院で研修を受けたのち、上司から2年ほど、地方の病院で修業してくるように言われた。赴任先は土佐にある人口2万の小さな町だ。新築されたばかりのこじんまりした病院である。勤務医は10人ほどで、内科以外は各科とも医... 2023.05.23 四季雑感
日本人の宗教心 妙好人 医師になって2年目で、まったく頼りない医者だった頃のはなしである。当時、大学の医局の指示で、地方の県病院に赴任したばかりだった。初夏の頃、家族に付き添われて80すぎの老婦人が来院した。聞くと、40度の高熱がひと月以上続いているという。熱のわ... 2023.05.07 日本人の宗教心
四季雑感 死を受け容れるひとたち 医師から癌と告げられるのは誰だって怖い。テレビで「3人寄ればひとりは癌で倒れる時代だ」というのを聞くと、心配で居ても立ってもおれないというひとがいる。こういうかたは人に言われなくても、早め早めに検診をうける傾向にある。気苦労は多いだろうが、... 2023.04.27 四季雑感
四季雑感 ひとの性(さが)は如何ともし難し 昭和30年頃のはなしである。亡母の里は市の郊外にある農家で、松の植わった庭の一部が家の縁側に接している。別に玄関はあるのだが、縁側からだとすぐ居間に上がれるので、家人はしばしばここから出入りした。むろん鍵などはかかっていない。小学校の夏休み... 2023.04.17 四季雑感
四季雑感 職人芸だった胃カメラの時代 職人芸だった胃カメラの時代かつて胃の検査といえば、まずレントゲン検査であった。バリウムというドロッとした液を飲み、発泡剤という粉で胃を膨らませ、からだの向きを変えながら胃の写真を撮るのである。我が国は胃ガン大国であったから、この技術が発達し... 2023.04.10 四季雑感
四季雑感 学問のすすめ 大学を出たとき、もう一生、試験とはおさらばという解放感に満たされた。無論、そう考えても不思議ではないだろう。ところが大学の研究室にはいると、毎週のようにカンファレンスが開かれ、研究成果を述べねばならない。それを纏めて発表するため、数か月に一... 2023.04.02 四季雑感
四季雑感 お茶とピアノ 学生時代は年中、金欠状態だった。はたちを過ぎたのに金銭感覚が乏しく、人並みに仕送りはあるのだが、目の前の欲しいものについつい手が出てしまって、すぐに食い詰めるという具合だった。そのうち、子供の頃かじったピアノにふと興味が沸き、他大学の音楽科... 2023.04.02 四季雑感
四季雑感 人生いろいろ 医師と患者のはざま 患者には厳しいが自分には甘く、その結果、からだを壊す医者の話しはよく聞く。これを医者の不養生という。じつは自分もその口で、仕事を離れるとつい自分には甘くなってしまいがちだ。したがって、時には他科の先生のお世話になることがある。そういう時は、... 2023.02.06 四季雑感
四季雑感 写真家に似て非なるもの 自分は毎日写真を撮っているから、写真家の端くれと言えないこともないが、本当は胃腸の中を撮影するのが仕事である。じつは子供の頃から絵を描くのが大の苦手だったが、写真ならシャッターを押すだけで、絵の上手い連中と同じように撮れるので、大いに気をよ... 2023.01.20 四季雑感
四季雑感 忘れるのもよし 歳をとると、運転免許の更新に認知症試験がいるという。ばかにするなと模擬テストなるものに挑んでみたが、試験の残り時間が気になりはじめると、覚えたはずのものが瞬く間に消えてしまい、散々な結果だった。高齢者では脳の細胞の2,3割は死んでしまってい... 2022.12.31 四季雑感
四季雑感 祖父の髭 高校時代に髭を剃った記憶はない。大学に行くため郷里を離れて下宿をし、銭湯に通うようになってから、髭を剃り始めた。しばらくは数日に1回、ディスポの廉価な髭剃りで事足りていたのだが、学年が上がり臨床実習で患者さんに接するようになると、そうはいか... 2022.08.26 四季雑感
四季雑感 “論より証拠”は本当か? 昭和4年の世界恐慌で日本経済は落ち込み、失業者が街にあふれた。地方では娘の身売りが頻発したという。すさんだ世相だったことが偲ばれる。このころ、日清日露戦のあと中国に常駐している日本の植民地常備軍(関東軍)に不穏な動きが出てきた。ほどなく中国... 2022.04.29 四季雑感
江戸時代 アダムスと家康のこと 1600年の春、ウイリアム・アダムスが5大老の筆頭・家康の前に引き立てられたとき、尋問の次第によっては、海外追放か、悪くすると処刑かもしれぬと覚悟したに違いない。大分の臼杵に漂着したオランダ船の乗組員22名のうち、自力で歩けるものは数名で、... 2022.04.24 江戸時代