昨日の全日本剣道選手権大会は見応えがあった。
決勝の内村・高橋戦である。
小柄の内村は長身の高橋に向かい、開始早々揺さぶりをかけた。
面を取ってくれといわんばかりに、相手の懐に飛び込む無謀を繰り返した。
竹刀さばきの鋭い高橋が、飛び込んできた相手のすきを狙うのだが、飛び込みながら内村の竹刀が激しく動くものだから、防戦一方にみえる。
そのうち、疲れてきたのは、受け身の高橋のようだった。
延長に入ってなお、内村の打ち込みは緩まなかった。
懐に入られた受け身に一瞬のすきが出た瞬間、内村の伸びた剣先が高橋の面を捉えた。
13cmの身長差をカバーして余りある深い打ち込みであった。
捨て身の攻めにみえたが、計算されたものであったろう。
なにしろ、二人は長年のライバルで、手の内は知り尽くしているからだ。
内村は3年前すでに、全日本チャンピオンである。
それが昨年は予選敗退であった。
内村は一念発起した。
「誰にもできることを、誰にもできないぐらいやる」と、自らを追い込んだ。
全く相手を休ませず攻め続け、相手のひるむまで攻めた。
その馬力は尋常でない努力の賜物であると、周囲は納得したであろう。
かつて宮本武蔵が“攻撃こそ最大の防御”と主張し、先手必勝を唱えたのに通じる。
これに対し柳生宗矩は、新陰流兵法花伝書のなかで「まずは相手に攻撃させ、そのすきを狙え」と説いた。
高橋はその戦法をとった形となった。
実力が互角の場合、もう一度やれば、結果はどうなるかわからない。
しかし、勝負に“もし”はない。
ここは内村の不断の精進を素直に讃えようではないか。