パリには、3度行った。学会帰りに2度寄ったのと、私的旅行が一度である。フランスには悪いが、あまりいい思い出がない。
1度目のパリは、日曜の朝。ルーブル美術館の前庭でいきなり話しかけてきたフランス人に、写真を撮ってやるという素振りに騙されカメラを手渡したところ、金を出さぬと返さないという。大いに憤慨したが、知らぬ顔を決め込んでいる。カメラと代わらぬ金を支払わされ、無念にもひきあげた。
2度目のパリでは、街でタクシーに乗ろうと挙手したが無視された。乗車場に30分立ってもやって来ない。やむなく地下鉄にゆき、駅員に切符の買い方を訊ねたが、無表情にして答えない。フランス語でなく英語で喋ったのが気に食わなかったらしい。
ちなみに彼らのほとんどは英語に堪能であるという。また戻って、タクシーを拾うのに1時間を要した。仲間との待ち会わせに遅れ散々だった。
3度目のパリは、地下鉄でのこと。親子連れが乗ってきて、次の駅に到着寸前、娘に時間を尋ねられた。腕時計をその子に見せていると、右ズボンのポケットがムズムズする。なんと母親の手が伸びて財布を抜こうとしているではないか。列車が駅に到着した。
つかまれた手を振り解き、とっさに被害者を装って睨み返す母親の頭に、わたしは軽い空手チョップを見舞って下車した。彼女は車内の同情を集め、私は一躍、加害者となってしまった。以上は偶然の不幸として片付けることにし、松山からみたパリの印象を述べる。
パリを美しく支えているのは、おおむね外国人労働者ではないか。街頭清掃や残飯収集など汚れ役は黒人が多くを担っている。タクシー運転手は圧倒的にアジア人が多い。
建物は外観が統一され整然としているが、雨よけがなく、地下街もないため突然の雨には閉口した。道路は石畳が多く、曲がりくねっているので車の乗り心地はよくない。街にはパーキングが見当たらない。品評会よろしく、街路の両サイドは車列で占拠されている。
BMW、BENZ 、WAGEN などのドイツ車が滅法多いが、地元ではそのことに拘泥しているふうはない。街を歩くと、コンビニがなく、自動販売機がなく、不便そうにみえる。松山のほうがよほど住みやすかろうと納得した。
ただ、街にはメガネをかけた人が少ないのに驚いた。理由は分からない。携帯電話をしながら歩く人もいない。普及してないのかもしれないが、自然でよい。
レストランの味はおおむね良かった。イギリスとは雲泥の差である。肝心のフランス人はどうかというと、ほとんど言葉が通じないのであるから、短期間ではなんとも言いようがない。
したがって、フランス人ではなく、パリの印象をのみ記した。