ジャパン・オープン・テニスに世界チャンピオンのナダルが出場するというので、勇んで出かけた。
前日の準決勝で、トロイツキ(セルビア)に何度かマッチポイントを握られながらもしぶとく切り抜け、わずか一度の逆転のチャンスをものにしたという。王者といわれる人は容易に集中力は切れないものである。
決勝の相手はフランスのモンフィスだった。ナダルは最初フォームを小さく、手堅く打ち返しているように見えた。
しかしそのうちコートに馴染んできたのか、フォアのトップスピンが正確にサイドラインを捕らえ始め、コートカバーに自信をもつモンフィスでも、長い手足を伸ばして返球するのに精一杯という状況になった。
ほどなくモンフィスが打つ手がないという仕草をしたので、あっけなく勝負がついた。
試合中に自ら負けを認めるようなことはしないものだが、どうやってもかないっこないというジェスチャーに、ナダルファンは満足げだった。
なんといっても、ナダルの持ち味は左手から繰り出される鋭いトップスピンだろう。
一度、これがベースライン付近に入ると大きく跳ねあがるため、相手はコート内に入ることすら容易でない。
ナダルを追い込む鋭いショットが打てないのである。
威力のない返球はナダルの思うつぼで、畳み掛けるようにトップスピンの連打が左右に飛んで、相手を疲弊させる。
また、相手のサービスに翻弄されても、そのあと矢継早に繰り出されるショットに執拗に追いつき、突然、崩れかかった体勢から左右のサイドラインぎりぎりを狙って放たれるパスが相手の戦意を喪失させる。
ゲームを支配していたはずが、一挙に逆転されたときの相手のダメージは計り知れない。かくして決勝戦はナダルの圧勝に終わった。
それにしても、ナダルが逆襲のために踏み出す足はストライドも大きく、一挙に膝への加重とひねりが加わるため、膝関節への負担は大変なものだろう。
このようなプレイスタイルをとる限り、昨年の全仏オープンで痛めた膝は、なかなか完治できないのではないか。
もともとナダルはクレーコートを得意とする。彼が育ったスペインのマジョルカ島には当時グラスコートもハードコートもなかった。土のコートだけだったという。
少年時代のナダルはそのでこぼこしたコートで、くたびれたボールを打って練習した。その頃の訓練がイレギュラーな球道にも即座に対応できるようになった要因だと、叔父であるコーチのトニーは話している。
またそういう経験をしたからこそ、ナダルは、ミスをしてもバウンドやラケットに怒りをぶちまけることはせず、素直に自分の技術を反省する。それが彼の強さの秘密だと胸を張る。
プロのコーチではなく、叔父のトニー(元プロテニス選手ではある)が今もナダルのコーチを続けていることについて、
「テニスはシンプルなスポーツだ。強く打つ、ライン近くに打つ。それだけのことだ。」
と意に介さない。
そして甥のナダルには、おまえは他の人となんら変わらない。テニスをやめれば特別扱いされなくなるんだから、今のうちから普通の人と同じように振る舞うよう言いきかせているという。
大層できたコーチだと納得した。