街で見かける犬についてである。
年が明け、いきなり面目をほどこしたかの如き扱われようである。
かれらも戸惑いを隠せないが、なんの数日のことである。
すぐ平穏な日々に戻る。
まわりには数多くの動物がいるが、ひとに最も気に入られている点では、犬をもって第一とする。
一緒にいる間、感情をおさえて主人に尾を振り、相手に合わそうとする努力は涙ぐましい。
自己抑制ができる動物としては傑出している。
かれら自身、伴侶を選ぶには得心いくまで相手を見定めるであろうが、こと主人だけは、みずからに選択の余地はない。
驚くのは、主人の横暴に対する不平不満を一切いわないことで、この重大な一点において、われわれは完全に負けている。
嗅覚に優れ、事件があると現場に残されたわずかなにおいを記憶し、逃げた犯人を追跡する技能をもつ。
何キロも離れたところで主人を見失っても、そのうち自宅に戻ってきたという話しにはいとまがない。
よほど高感度のカーナビのごときものを持ち合わせているのであろう。
見知らぬものはことごとく敵と心得、闘争心をかきたてるが、わが主人から一度紹介をうけると、もはや間違うことはない。
記憶力もあなどれないのである。
特筆すべきは、如上の能力を一切隠して、謙虚な姿勢を崩さないことである。
なかなかにしたたかな動物ではないか。